大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和32年(あ)802号 判決 1958年6月17日

主文

本件上告を棄却する。

理由

被告人の上告趣意について。

所論は、結局事実誤認の主張に帰し刑訴四〇五条の上告理由に当らない。(なお原判決の挙示する証拠を調べてみると、原審の事実認定に誤りがあるとは認められない)。

弁護人吉田耕三の上告趣意第一点、弁護人村沢義二郎の上告趣意について。

所論は、共謀共同正犯に関する独自の見解を前提として原判決の事実誤認を主張するか、あるいは事実誤認を前提として、大審院判例違反を主張するに帰し、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。なお共謀共同正犯が成立するには、二人以上の者が特定の犯罪を行うため、共同意思の下に一体となって互に他人の行為を利用し、各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議をなし、よって犯罪を実行した事実が認められなければならないけれども、共謀の事実が厳格な証明によって認められ、その証拠が判決に挙示されている以上、共謀の判示は、前示の趣旨において成立したことが明らかにされれば足り、さらにすすんで謀議の行われた日時、場所またはその内容の詳細すなわち実行の方法、各人の行為の分担役割等についていちいち具体的に判示することを要するものでないとするのは、当裁判所大法廷のすでに判示するところである(昭和二九年(あ)第一〇五六号同三三年五月二八日判決)。そして原判決の是認する第一審判決の判示する事実と挙示の証拠とを対照してみると、その認定は相当であって、所論のような事実誤認もない。(すなわち、被告人は、相被告人岩佐、同甲斐、同大久保、その他第一審判決理由第一の(一)判示の各相被告人等とともに共同意思の下に一体となって互に他人の行為を利用し、同判示の田中アパートにいわゆる殴込をかけ、村田及び川内等に対し暴行を加えようとする謀議を遂げ、殴込を実行すべき者をも選定したものである事実は第一審判決挙示の証拠により十分認められるのである。そして、殴込をかけたところ同判示のように、予期に反し右アパートには村田は居らず、川内及びその乾分井上、星田もさして抵抗しなかったのでこれに暴行を加えることなく、同人等を相被告人岩佐方前まで連れて来て、殴込を担当した相被告人等が携行した兇器はこれを回収した事実はあるのであるが、同判決は、相被告人岩佐、同甲斐、同兼子等が右川内等を連れて来た相被告人等に対し直ちに、川内等を「足羽河原で殴って放せ」と命じた事実をも適法に認定しているのであるから、前記のように兇器を回収した事実があるからといって、未だただちに相被告人等が当初共謀した暴行の意思を放棄したものとはいえない。されば、かりに被告人は右相被告人岩佐等が「足羽河原で殴って放せ」と命じた事実を知らなかったとしても、被告人は、同判決が認定するように右命令に従って同判決判示の相被告人等が右川内等に加えた暴行のため生じた傷害ならびに傷害致死について罪責を免れることはできない。)

弁護人吉田耕三の上告趣意第二点について。

所論は、量刑不当の主張にすぎず、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

弁護人牧野賢弥の上告趣意第一点について。

所論が詳細に述べるところは、結局証拠とされた被告人等の検察官に対する供述が強制拷問、誘導脅迫による不任意のものであることを主張し、これを前提として事実誤認を主張するに帰する。しかし記録を検討してみても、所論のような事実を認めるに足りる証跡がない。したがって所論の事実誤認も採用できない。 同第二点について。

所論は、原審の事実認定と異なる事実を前提とする法令違反の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

同第三点について。

所論は、刀剣所持の事実について、事実誤認、法令違反を主張するのであって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。

同第四点について。

所論は、単なる量刑不当の主張にすぎず、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林俊三 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例